日本頭頸部癌治療研究会

発足の歴史 髙坂知節著 闘いの日々 安らぎのとき ある医学徒の回想 より

北日本頭頸部癌治療研究会の発足と躍進

 頭頸部癌の臨床と研究については、西高東低現象が続いていると云われて久しかったが、近年に至りその傾向が少しずつ改善されてきているとの風評を聞くにつけ、内心嬉しく思っているところである。
このことは、何よりも東北・北海道に住み、日々癌の恐怖に怯えている住民のかたがたにとって福音であると同時に、頭頸部外科領域の臨床医を目指す若い医師達にとっても大いに励みとなるものであろう。

 東北・北海道地区の頭頸部癌治療の水準が低かった理由には、幾つかの要因が考えられるが、1961年(昭和36年)に発足した頭頸部腫瘍研究会が、岩本彦之亟(東京女子医大教授)、北村武(千葉大学教授)、広戸幾一郎(久留米大学教授)という個性豊かな3名の教授が発起人となって発足したことが大きいと思われる。
この研究会は、お互いに手術を供覧しあい、知識を交換しあって、頭頸部外科を発展させようという目的で発足したが、第1回が久留米大学、2回が神戸医科大学、3回が千葉大学、4回が東京女子医科大学、5回が京都府立医科大学、6回が岡山大学、7回が大阪大学、8回が千葉大学、9回が名古屋大学、10回が国立がんセンターと、10年間は全て関東以西のみで開催され、しかも複数回担当する大学があるにも拘わらず、東北・北海道との縁はなかった。その後、研究会は1977年(昭和52年)に頭頸部腫瘍学会と発展し、その3年後には日本頭頸部腫瘍学会と改名したが、学会の開催地は依然として関東以西が多く、北日本地区での開催は、1986年(昭和61年)に東北大学(河本和友会長、但し前年に退官)が初めて担当するまで、本研究会の発足以来実に4半世紀を経過していたのである。

 いっぽう、東北地方では頭頸部癌治療が低調であったかといえば、そうではなく、片桐主一教授(弘前大学後に東北大学)は素晴らしい腕前で、進行癌の手術療法並びに放射線との併用療法を行っていて、その治療成績も注目に値するものであった。しかし、どういう訳か先生が頭頸部腫瘍学会を担当することはなかったのである。また、北海道大学でも同じような状況にあり、犬山征夫教授が1994年に本学会会長となるまで、開講以来4代の教授が本学会とは無縁であった。

東北における頭頸部癌治療研究会のあゆみ

東北地方では、いわゆる日耳鼻関連の地方部会や連合学会において頭頸部癌をターゲットにした研究発表が行われていたが、その他にも(株)日本化薬が主催するブレオマイシン研究会があり、各大学が回り持ちで毎年1回開催することになっていた。この研究会は、会場費、旅費、懇親会費などを全てスポンサーが負担するという形式で続けられてきたが、社会情勢の変化と日本化薬の社内事情により、研究会の継続が困難となったため、福島医大の大谷教授が担当した時点の世話人会において、本研究会に終止符を打つことが決まった。

 しかし、多数決で決まったこととはいえ、この研究会がそれまでに果たしてきた頭頸部癌臨床における役割が大きいことと、これが無くなることによって、若い頭頸部外科医の育成に支障をきたすばかりでなく、東北地方の頭頸部癌治療レベルの低下に繋がりかねないことを懸念して、何らかの打開策を講じなければならないと、常日頃から筆者は考えていた。

北日本頭頸部癌治療研究会の発足

1988年(昭和63年)になって、北海道大学に慶応大学から犬山征夫教授が着任することになり、教室の主テーマである耳科学を引き継ぐいっぽう、それまでに取り組んできた頭頸部悪性腫瘍の外科学および化学療法を中心とした頭頸部腫瘍の研究・臨床の充実を図り、新しい教室造りを目指すことになった。犬山教授が日本頭頸部腫瘍学会を主催した1994年に、日頃から温めていた構想である東北と北海道をひとつにした頭頸部癌治療研究会を発足させることについて、学会の合間を利用して筆者が提案したところ、犬山教授自身も北海道における同じような研究会の構想を温めていたということで、2人の考えが一致して直ちにゴーサインが出された。
その後は、ファックスなどで研究会の概要について打ち合わせを行い、いよいよ1995年1月28日、日本頭頸部外科学会が東京砂防会館で開催されるのを利用して、赤坂プリンスホテル別館3回のローズルームにおいて、第1回の北日本頭頸部癌治療研究会世話人会が開催されることになった。

 我々の呼びかけに応じて東北・北海道の9大学教授全員から世話人を引き受ける旨の返事があり非常に心強い思いをした。その時の、趣意書を参考のために引用しておきたい。

趣意書

 近年、癌治療の分野においては外科的療法、放射線療法そして化学療法等或いはこれらの組み合わせによる集学的治療が施行されていますが、その成果は一進一退の感があります。これは私どもの診療分野である頭頸部癌におきましても概ね同様な状況であります。その原因として、わが国ではMedical Oncologyの部門が確立されていないため適切な臨床試験が計画されにくいこと、加えて頭頸部領域は口腔外科、放射線科との関係もあり、治療方針の統一が困難であるということが考えられます。さらに、北海道、東北地域においては折角の研究も発表する場が少ないため研究意欲の盛り上がりに欠けるきらいがあるようにも思えます。

 そこでこの度、頭頸部癌に関する研究発表および研修の場として北日本頭頸部癌治療研究会を発足させることになりました。頭頸部癌治療に関する研究会はそれぞれ北海道あるいは東北で単独で行われてきましたが、両地域を合同しさらに広く同学の志を募り、従来西高東低といわれた北日本の頭頸部癌治療の向上に少しでも役立てればと考えております。

 つきましては、当研究会の趣旨にご賛同いただき、是非ともご参加くださいますようお願い申し上げます。

北日本頭頸部癌治療研究会
代表世話人 北海道大学教授 犬山 征夫
東北大学教授 高坂 知節

なお、世話人開催地にあたり、実務を担当する幹事候補として、西条茂(宮城県がんセンター)、橋本省(国立仙台)、田中克彦(国立札幌)の3氏の内諾を得た。また、研究会の共催者として、ブリストル・マイヤーズスクイブ、三共、大鵬薬品、キリンビール(医薬品事業部)の4社が参入した。これにより、研究会における特別講演者の旅費、滞在費、講演謝金などが賄われることになる。なお、本会の運営全般にわたるご意見番として、河本和友東北大学名誉教授、寺山吉彦北海道大学名誉教授に監査役をお願いし、これもご快諾を頂いた。

北日本頭頸部癌治療研究会第1回世話人会

1995年(平成7年)1月28日の午前10時30分より、赤坂プリンスホテル別館3階のローズルームにおいて始まった。参加者は、

  • 犬山征夫 ・・・ 北海道大学 教授
  • 海野徳二 ・・・ 旭川医科大学 教授
  • 形浦昭克 ・・・ 札幌医科大学 教授
  • 髙坂知節 ・・・ 東北大学 教授
  • 大谷 巌 ・・・ 福島医科大学 教授
  • 村井和夫 ・・・ 岩手医科大学 教授
  • 宇佐美真一 ・・・ 弘前大学 助教授
  • 岡本美孝 ・・・ 秋田大学 講師
  • 田中克彦 ・・・ 国立札幌病院 医長
  • 橋本 省 ・・・ 国立仙台病院 医長
  • 西条 茂 ・・・ 宮城県立がん 部長
  • 小林俊光 ・・・ 東北大学 助教授
  • 中村邦彦 ・・・ 三共株式会社 仙台支店
  • 文屋恒一 ・・・ 大鵬薬品工業株 仙台支店
  • 車 哲治 ・・・ キリンビール 東北営業所
  • 伊藤晴司 ・・・ ブリストル・マイヤーズスクイブ 学術推進部
  • 清水明男 ・・・ ブリストル・マイヤーズスクイブ 仙台支店

 最初に、発起人の犬山教授と筆者から研究会発足の趣旨説明があり、早速議事にはいった。まず、北日本頭頸部癌研究会の会則(案)が示され、原案通り承認され、28日をもって施行日と決定した。

 次に役員の選出となり、代表世話人に犬山征夫、髙坂知節を選出し、世話人には海野徳二、形浦昭克、新川秀一、立木孝、戸川清、青柳優、大谷巌の各教授、監査役に河本和友、寺山吉彦の両名誉教授、そして幹事として、福田諭、田中克彦、小林俊光、西条茂、橋本省の5名を選出した。

 第1回の学術集会は仙台で開催することになり、東北大学から1995年11月25日(土)に艮陵会館において開催し、特別講演の候補者として、国立がんセンターの海老原敏先生を考慮中と報告された。なお、第2回は翌年に札幌市で開催することも承認された。

その後に、自由発言となり、以下の意見が述べられている。

  • 研究会の継続性が重要である(形浦)
  • 若い人に役立つパネルや特別講演を中心にして欲しい(宇佐美)
  • 東北地方は地域格差が大きいので、教育講演が欲しい(村井)
  • ひとが集まるかどうかがポイントである。パネル、特別講演を中心として、一般演題は無くても良いのではないか(岡本、田中)
  • 西高東低の癌治療において、北日本のレベルアップにつながる研究会になって欲しい(西条)

 また、当時は製薬会社との癒着など社会的な問題が浮上していたので、この点についても審議され、公取協各支部の承認を得ていることが、三共とブリストル・マイヤーズスクイブから報告された。
最後に、日耳鼻専門医制度認定学術集会の認定申請をすることでも一致した。

会則について

14年前に制定された会則は、その後に構成員に顧問を加える変更以外は、殆どそのまま踏襲されている。以下に、現行の会則を引用しよう。傍線の部分が、平成12年に行われた変更点である。

北日本頭頸部癌治療研究会 会則

平成7年1月28日制定
平成12年10月7日改正

第1章 総則
  第1条 本会の名称を北日本頭頸部癌治療研究会とする
  第2条 本会の会員は社団法人日本耳鼻咽喉科学会正会員に限る
  第3条 本会は北日本における頭頸部癌の診断・治療の向上およびその普及に寄与することを目的とする
  第4条 本会は前条の目的を達成するために次の事業を行う
   
(1) 学術集会の開催
(2) 学術集会における研究発表の抄録刊行
(3) その他前条の目的を達成するために必要な事業

 

第2章 構成
  第5条 本会の構成は次の通りとする
   
(1) 代表世話人 2名(北海道、東北各1名)
(2) 世話人 若干名
(3) 顧問 若干名
(4) 監査役 2名(北海道、東北各1名)
(5) 幹事
(6) 会員
(7) 準会員
(8) 賛助会員

 

第3章 世話人
  第6条 世話人、顧問並びに幹事は世話人会を構成する。
  第7条 世話人会は代表世話人がこれを招集する
  第8条 世話人会は次の役割を持ち、会の運営にあたる
   
(1) 年間活動方針の決定
(2) 学術集会の開催時期の決定
(3) 学術集会の内容の検討
(4) 学術集会における研究発表の抄録刊行

 

第4章 顧問
  第9条 顧問は世話人会に出席し、意見を述べることができる

 

第5章 監査役
  第10条 監査役は本会の業務内容並びに会計についての監査を行う
  第11条 監査役は代表世話人が会員より指名する

 

第6章 幹事
  第12条 幹事は世話人会に出席し、世話人会の意向を受けて実務に当たる

 

第7章 準会員
  第13条 準会員は本会の目的に賛同し、会員と共同で発表を行うものとする

 

第8章 賛助会員
  第14条 賛助会員は本会の目的に賛同し、世話人会の意向を受けて本会の運営に協力する

 

第9章 総会及び学術集会
  第15条 総会及び学術集会は次の項目に従って開催する
   
(1) 総会及び学術集会は世話人がこれを開催する
(2) 総会及び学術集会は年1回開催とし、札幌又は仙台で開催する

 

第10章 会費
  第16条 会員の年会費は1名につき2,000円とする
  第17条 会計業務は事務局がこれを行う
  第18条 会計年度は1月1日から12月31日までとする
  第19条 収支決算は世話人会の承認を得た上、総会で報告する

 

第11章 事務局
  第20条 事務局は東北大学医学部耳鼻咽喉科学教室に置く

 

第12章 付則
  第21条 会則の改正は世話人会の決定による
  第22条 本会則は1995年1月28日より施工する

なお、世話人開催地にあたり、実務を担当する幹事候補として、西条茂(宮城県がんセンター)、橋本省(国立仙台)、田中克彦(国立札幌)の3氏の内諾を得た。また、研究会の共催者として、ブリストル・マイヤーズスクイブ、三共、大鵬薬品、キリンビール(医薬品事業部)の4社が参入した。これにより、研究会における特別講演者の旅費、滞在費、講演謝金などが賄われることになる。なお、本会の運営全般にわたるご意見番として、河本和友東北大学名誉教授、寺山吉彦北海道大学名誉教授に監査役をお願いし、これもご快諾を頂いた。

学術集会

世話人会での意見を踏まえて本研究会の学術集会の在り方について、犬山教授や主な世話人のかたがたと話し合い、一般演題を募集する形式ではなくて、毎年テーマを決めて、そのテーマに沿った演題を各施設から1題ずつ提出してもらいパネルディスカッション形式とすることにした。第1回のテーマは「喉頭癌」と決まり、また特別講演には、九州大学の小宮山荘太郎教授と国立がんセンター東病院の海老原敏院長にお願いした。会場の設営にも配慮し、いわゆる学校形式ではなくてU字型の円卓テーブル形式を採用した(付図参照)。これは各スピーカーが顔を合わせて気軽に討論できるようにとの計らいである。なお、第1回のパネルの司会は犬山征夫教授に担当していただき、小宮山、海老原両先生にも討論に加わって頂いたこともあって、非常に活発な意見交換が行われた。

(注:図は第3回研究会のもの)