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学報告

Massachusetts Eye and Ear Infirmary留学記

平成17年入局 鈴木 淳

はじめに

2014年6月から2年3カ月間、マサチューセッツ眼科耳鼻科病院(Massachusetts Eye and Ear Infirmary:MEEI)のEaton-Peabody Laboratories(EPL)に留学しました。生粋の東北人である私が、どのように留学生活を送ってきたかをご紹介させて頂きたいと思います。留学に興味がある先生方の参考になりましたら幸いです。

ボストン


写真1:ボストン中心部
MEEIのあるボストンは、アメリカで最も古い歴史を誇る都市の一つです。観光の見どころも多く、ヨーロッパ風の街並みが綺麗でした。地下鉄が市内を網羅しており、車を所有しませんでしたが特に困ることはありませんでした。市中心部には、市民の憩いの場である大きな公園や川沿いの遊歩道が整備されており、休日や仕事が終わった後に家族でよく散歩に出かけました(写真1)。
市内の治安は良好で、日常の生活圏内で身の危険を感じることはありませんでした。しかしながら治安の良さや文化レベルの高さは高額の家賃との引き換えに得られるものであり、全米有数の生活費が高い都市での生活は思った以上に費用がかかりました。また留学当初は1ドル100円程度だった為替レートがあっと言う間に120円となり、円安にも苦しめられました。

MEEI・EPL

MEEIはハーバード大学関連医療機関の中でも特に有名なマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital:MGH)の隣にあり、MGHの眼科と耳鼻咽喉科部門を担っています。アメリカの病院ランキングで常に上位を争う施設であるとともに(耳鼻咽喉科は2015-16年度の全米No.1)、研究活動も盛んです。1958年創立のEPLは25人以上の主任研究者を有する聴覚研究で世界的に有名な施設であり、日本からも5名の耳鼻咽喉科医が留学していました。

研究環境


写真2:ラボのメンバーと
私はEPLの施設長を務めるLiberman教授のラボで研究を行いました。総勢6-7名ほどのアットホームな研究室で(写真2)、小規模ながら世界有数の電気生理研究設備と蝸牛微細構造解析技術を有していました。同僚はほぼアメリカ人でしたが、驚くほど勤勉な人達でした。聴覚研究の大御所であるLiberman教授ですが、私の実験をこまめにチェックして頂きました。教授自らも研究を行っており、週末に半日以上顕微鏡を占有していることが多々ありました。現場を熟知したLiberman教授と頻繁にディスカッションを行いながら自分のペースで研究を進めることができた環境は、極めて貴重でした。

研究テーマ

工場の大騒音やコンサートの大音響などにより、急性音響性難聴が生じることがあります。難聴の多くは一過性であり、自然に聴力が回復するため医療者も治療が必要な疾患として注目してきませんでした。しかしながら近年、このような軽度の騒音曝露でも不可逆的なシナプス障害が生じ、加齢性難聴や耳鳴の発症につながることをLiberman教授らが報告しました。このシナプス障害は、聴覚閾値が変化しないため“Hidden hearing loss”と呼ばれます。私はこの難聴の治療法を開発するために、神経栄養因子投与による治療効果を評価したり、有毛細胞にウイルスを導入する方法の確立を行いました。マウスの微細な耳に手術を行う機会が多くあり、この辺りは耳鼻咽喉科医としての経験が役に立ちました。

日常生活

Liberman教授が個々の自主性を尊重する方だったこともあって、比較的自由に自分や家族との時間を使うことができました。長男は現地の幼稚園で学び、妻は教会主催の英会話教室でいろいろな国の人と交流し、家族それぞれも充実した日々を送ることが出来ました。

最後に

渡米当初は人種も宗教も様々な人々と仕事や生活をする環境に大変戸惑いました。英語は最後まであまり上達しませんでしたが、英語でコミュニケーションを取ることに対する抵抗は徐々に薄れました。言語に関係なく、話を聞いてもらうに値する仕事をし、それをしっかり伝えたいという熱意を持つことが重要だと感じました。