喉頭音声外来
音声障害のある患者さんの治療を行います
1.喉頭外来について
1)喉頭とは
喉頭は“のど仏”のすぐ後ろにあり、呼吸の通り道であるとともに、音声を作り、飲み込みをスムーズに行うという重要な働きをしている器官です。喉頭のほぼ中央にはV字型をした左右1対の声帯があり、発声のときには左右の隙間を狭めて振動し音源を作ります。また、嚥下の際にも隙間を閉じて誤嚥(気管に分泌物や飲食物が入ってしまうこと)を防止する役割をしています。
そのため、喉頭に腫瘍、麻痺、炎症、変形等の病気が生じると、音声障害、嚥下障害ならびに呼吸障害の症状が起こります。喉頭外来では、それらの障害をもつ患者さんの診断と治療を、関連する診療科(リハビリテーション科、小児科など)や頭頸部腫瘍外来と連携して行っています。
2)当外来で診療する疾患
声帯結節、声帯ポリープ、声帯麻痺、喉頭肉芽腫、喉頭乳頭腫、喉頭癌、機能性発声障害、喉頭外傷、喉頭狭窄症、気道異物、嚥下障害
2.診断治療について
1)診断について
一般外来を受診された方の内、当外来にて検査、治療が必要な方が再来(予約)となります。喉頭疾患の診断には、多くの場合、喉頭内視鏡検査(鼻から細いファイバースコープのカメラを挿入して声帯をはじめとする喉頭の形や動きを観察します)を行います。音声障害の患者さんには声の強さや長さ、音響分析の検査を行っています。嚥下障害の患者さんにはリハビリテーション科と協同して嚥下造影検査を行っています。
2)治療方針
音声障害や嚥下障害の患者さんには疾患の特徴や患者さんの背景を考慮して、保存的治療(投薬や声の衛生指導、嚥下訓練など)をすすめています。また、保存的治療で改善しないケースでは声帯ポリープ切除などの喉頭顕微鏡手術や声帯麻痺に対する喉頭形成術などの手術治療を行っています。
3.担当医よりメッセージ
音声障害の治療について
声は、①声帯の運動が正常で発声時に左右の声帯の間が適切に狭められること、②声帯の弾力性が正常で良好な振動が起こること、③声帯を振動するエネルギーとなる呼気を作る呼吸機能が良いこと、の3つの条件があって初めてスムーズに作りだされます。また、日常の仕事での発声状況、喫煙などの要素が音声には大きな影響を与えます。喉頭外来では音声障害の原因を検査し、患者さん個々の生活背景を考慮して治療の相談をしてまいります。
音声障害の保存的治療の一つに音声治療があります。
音声治療とは、「音声に悪影響をあたえる生活習慣や発声行動の改善や、発声方法を変えることで、音声の改善を図る治療法です。声のリハビリテーションと言える治療法になります。音声に影響する生活面の指導を中心とした声の衛生指導と発声訓練の大きな二つの柱からなります。患者さんの声の症状に応じた治療プログラムを作成し進めていきます。
4.各疾患説明
A)声帯結節
声帯の上皮が厚くなり小さい隆起をつくり、かすれ声になる病気です。大きな声を長時間使うことに原因します。学校の先生や歌手の方に多くみられます。声の衛生指導(発声制限や発声指導)により症状が改善する患者さんが多いのですが、陳旧例や改善の乏しい患者さんでは結節の切除を行っています。ときおり小学生くらいの男児にも認められますが、小児では変声期を経て改善することが多いので原則的には経過観察しています。
B)声帯ポリープ
声帯の粘膜下に慢性の炎症による浮腫(水ぶくれ)ができて、声ががらがらになり出しづらくなる病気です。喫煙者で声を酷使した人に多くみられます。良性の病気でがん化することはありませんが、声の改善を希望される人には、ポリープの切除や切開吸引の手術を行うとともに、禁煙や発声習慣の改善を促しています。
C)声帯麻痺(反回神経麻痺)
声帯の運動を司る神経の名前から反回神経麻痺ともいわれます。頭からの神経が一度胸の中に入ってから折り返して喉頭に入ってくるため、その経路の病気、たとえば甲状腺がん・食道がん・胸部大動脈瘤などの病気に関係しても起こります。発声や嚥下のときに左右の声帯間が閉鎖しにくくなり、息のもれるようなかすれ声や誤嚥(とくに水分)の原因になります。麻痺の原因を検査するとともに、長期に麻痺の改善しない患者さんに対し、症状改善を目的に喉頭形成手術を行っています。
D)喉頭肉芽腫
声帯の後方に出来易い隆起性の「肉芽」(炎症組織)で、腫瘍ではありませんが、大きくなるとかすれ声やのどの違和感を生じます。強い発声習慣、気管内挿管(麻酔)の刺激、酸逆流症などが原因となります。酸分泌抑制剤や消炎剤の投与により治療を進めます。
E)喉頭乳頭腫
喉頭に発生する良性腫瘍で、小児、成人ともに認められます。喉頭顕微鏡手術により全身麻酔で口の中から切除手術を行いますが、局所再発が多く、複数回の手術を要することが多い疾患です。
F)喉頭癌
喉頭がんは高齢男性で喫煙歴の多い患者さんに発生しやすく、枯れ声の症状から早期に受診されるケースも多く、治療後の音声を出来るだけ保つように頭頸部腫瘍外来と連携して診断と治療を行っています。早期喉頭がんの治療には放射線治療・局所のレーザー切除・喉頭部分切除術の選択があり、癌の発生部位や進行度、患者さんの年齢、手術後の音声機能を考慮して治療法を相談しています。
G)機能性発声障害
喉頭に腫瘍、炎症や麻痺の病気が無いのに、声が上手く出せない障害の総称です。心因性発声障害や痙攣性発声障害、変声期の発声障害などが含まれます。発声指導、薬物治療、手術治療の適応について相談しています。
H)喉頭外傷
喉頭は外側を軟骨(のど仏)からなる硬い部分ですが、打撲、切傷、ひもによる頸部の絞扼などにより外傷を受けると、呼吸、発声、嚥下に障害をきたし重篤な病状を起こします。 当院では救急救命センターでの治療に引き続き、後遺障害を出来るだけ軽減できるように、障害部位の診断と手術治療を行っています。
I)喉頭狭窄症
外傷、熱傷、気管切開の後遺症や先天的な障害により、呼吸の通路である喉頭の内腔が狭くなると呼吸障害を生じます。当科では気管切開による応急的な気道の確保、画像検査による狭窄の部位と程度の診断、さらに狭窄の解除を目的とした手術治療を行っています。
J)気道異物
喉頭から気管、気管支にピーナツ(乳幼児に多い)や歯科材料(高齢者に多い)のような異物がはまり込むと、場所により気道狭窄・呼吸障害・窒息を起こすとともに、長期間留置された場合、気管支炎・肺炎を起こします。初期対応から摘出までの適切な治療が必要です。当院では救急救命センター、呼吸器外科、小児科および麻酔科と連携して気道異物の治療にあたっています。
K)痙攣性発声障害
痙攣性発声障害は、発声時に内喉頭筋の不随意的、断続的な痙攣を来すことにより、声がつまる、震える、とぎれる、抜けるといった症状を呈する疾患です。病型は内転型と外転型に分類され、内転型が約 95%と多数を占めます。当院では音声治療、声帯内へのボツリヌス毒素注射、甲状軟骨形成術Ⅱ型などの手術治療を行っています。